なぜオプションを取引するのか?   (2009年10月16日)


あらためて、オプションの利点って何だろう?

サブプライム・ローン問題に端を発した金融危機。 そしてリーマン・ショック後の株価暴落などの影響もあり、投資家の間でオプション取引への関心が高まっています。

国内でも、今までオプションを取引していなかった人が新たに取引を始めるケースが増えています。
9月8日の日経225オプション取組高は194万枚となり、1989年の取引開始以来、過去最高を記録しました。 株の売買高が低迷する中、オプション市場では活発な取引が行われているのです。

巷では、「オプションは儲かるらしい」、「オプションは株より有利らしい」、「何よりもオプションには優位性がある」といった声がよく聞かれます。

しかし、オプションの「優位性」とは何でしょうか?
ここでは、オプションの細かい技術論は置いておいて、そもそも投資家にとってオプションを取引するメリットとは何だろう? という点をシンプルに考えてみたいと思います。

アイディアを形にすること

まず、オプションでは何ができるのでしょうか?
単純化して考えると、「オプションは、相場に対する投資家の考え(アイディア)を利益につなげる為のツールである」、ということが言えます。

例えば、日経平均株価が6ヶ月後には大きく下落しているだろうと予測している投資家がいるとします。 この投資家は、6ヶ月後に満期となる日経225オプションのプットを買うことで、このアイディアに投資することができます。

◆プット・オプションの買い
オプションの買い

オプション以外の取引で考えるなら、「日経225先物を売る」という選択肢もあります。 個別の株式を「空売り」するというのも一つの方法です。
つまり、同じ投資アイディアであっても、それを実現するための手段は複数あるということです。
オプションは数ある選択肢の一つということになりますね。

そこで次に、「オプションを取引するメリット、デメリットは何か?」という点を考慮する必要性が出てきます。

上の例では、プット・オプションを買うことのメリットは2つあります。
第一に、先物の売りや株式の空売りでは無制限の損失リスクがあるのに対して、プットの買いでは損失が限定されているという点。
第二に、プットの買いは小額の資金を使って大きなリターンを得られる可能性があるという点です。
(日経225先物を取引するためには100万円単位の資金が必要だが、日経225プットの買いでは数十万円の資金でも十分に取引を行うことができ、大きなリターンを狙える。)

しかし、プットを買った投資家が利益を得るためには、日経平均株価が6ヶ月以内に大きく下落する必要があります。 これがプット買いのデメリットです。
7ヵ月後に株価が大きく下落しても全く意味がありません。 つまり、このプットの買い手が利益を得るためには、「株価が下落するだろう」という投資アイディアが6ヵ月以内に実現されなければならないのです。

「損失限定」と「レバレッジ」のメリット、そして「時限リスク」というデメリットを踏まえた上で、投資家はプット・オプションを買うのか、または他の投資手段を選ぶかを決める必要があるということですね。

別の例として、株価が今後横ばいで推移するだろうという投資スタンスを考えてみましょう。 これはコールとプットを同時に売る「ショート・ストラングル」というオプション戦略を使うことで実現できます。

◆コール・オプションとプット・オプションの売り
オプションの売り

他の一般的な投資商品は、基本的に上がるか、下がるかの2択しかありません。 そのため、上図のように中立のポジションを取れること自体が、オプションの利点と考えることもできます。
これはほんの一例ですが、株式投資や先物取引、FX取引などでは実現できない投資アイディアであっても、オプションを使えば簡単に実現できるケースが多々あるのです。

オプションの本質

「優位性」という曖昧な言葉で表現されることの多いオプションですが、つまりは「投資アイディアの実現、およびリスクコントロールにおける自由度」がオプションの最大の利点であると筆者は考えています。

投資家は何らかのアイディアを持ち、そのアイディアから利益を生むために、どのような手段が最適かという検討を行います。 そして、オプションは選択肢の一つとして検討すべき対象となります。
投資家の選択肢を広げるもの。それがオプションの本来の意味です。

もちろん、オプションに向いていないケース(投資アイディアの実現)というのもあります。
例えば、5年先を見越して新興国に投資したいケースなどがそうです。
証券市場のオプションは最大でも3年くらいの寿命しかないため、5年先、10年先を見越した長期投資には向いていません。 そのような場合には、株式やETFなどの現物を買い、長期的に保有するのが適しています。

オプションの優位性

オプションを賢く売買することで、マーケットに対する優位性を持つことは可能です。 それは、マーケットの歪み(skew)を見つけ、その歪みを上手く利用することで実現できます。
ボラティリティ戦略やスプレッド戦略を駆使すれば、取引の時点で相当有利なポジションを持つことも可能です。

しかし、これはオプション自体の優位性ではありません。
オプションを取引すれば誰でも優位なポジションに立てるというのはありえないことです。 「優位性」というのは投資家自身が作り出すものであって、オプション自体に備わっている性質とは異なります。

つまるところは、何を、いつ、いくらで取引するかが重要になります。
この点において、オプションは他の投資となんら変わりません。
ただ、取引の選択肢が非常に多いため、ほとんど無限の投資アイディアを実現することができ、リスクやレバレッジもコントロールできるというのがオプションの強みなのです。

このようなオプションの利点を活かし、「優位性」を持って取引するためには、学習が不可欠であるのは言うまでもありません。
オプションに魔法のような効果を期待するのではなく、その特徴を最大限に利用するための現実的な方法を学んでいくことが、結局は成功の近道になるということです。

当たり前のようですが、時々は基本に立ち戻り、オプションの本質について考えてみることが大切かもしれません。

prev     next