「Penny Pricing」- 米国オプションの新たな取り組み   (2007年8月11日)


オプションの「Penny Pricing」とは?

市場で取引されるオプションのプレミアム(価格)は、売り手と買い手の合意によって決定します。
ただ、オプションのプレミアムは完全に自由というわけではありません。
オプション毎に「最低変動幅(Minimum Quotes)」というものが設定されており、この変動幅より小さい単位でプレミアムが変動することはありません。

例えば、日本の日経225オプションの場合、プレミアムの最低変動幅は1,000円と決まっています。
オプション1枚当たりの価格は千円単位で変動するため、千円以下の半端なプレミアムが付くことはありません。

一方、米国の証券オプション市場では、プレミアムの最低変動幅は現在0.05ポイントとなっています。(1ポイント=1ドル)
この変動幅を、今後は0.01ポイント(1セント)にしようというのが、米国の「Penny Pricing(1セント価格)」と呼ばれる取り組みです。
オプションの取引価格を増やすことでトレーダーに豊富な選択肢を提供し、オプション市場を活性化する――これがPenny Pricing制度の狙いです。

米国の証券オプション市場では、今年1月よりPenny Pricingの試験導入が行われています。
試験運用の現状においては、オプションが活発に取引されている一部の原資産銘柄(株式とETF)のみをPenny Pricingの対象とし、流動性や取引システムのチェックなどが行われています。(対象銘柄は、マイクロソフト、インテル、AMD、GE、Nasdaq上場投信“QQQQ”など、全部で13銘柄。)

Penny Pricingが導入されるとどうなる?

例えば、日経225オプションのプレミアム変動幅が1,000円から100円になったと想像してみてください。
今まで1,000円のプレミアムで取引されていたオプションが1,200円で取引されたり、全く取引されていなかったアウト・オブ・ザ・マネーのオプションが500円のプレミアムで取引されたりするはずです。
この変化はトレーダーの売買戦略に影響を及ぼすだけでなく、取引所や証券会社の注文システムにも多大なインパクトを与えるでしょう。

米国のPenny Pricingプログラムは、これを最終的に1,000種類以上のオプション銘柄に対して行おうというのですから、いかに「とんでもない」取り組みであるかが分かります。

浮かび上がった問題点

「より自由な選択肢をトレーダーに提供する」という理想の下に始まったPenny Pricingですが、いくつかの問題点も浮かび上がっています。

まず第一に、Penny Pricingを導入したオプションの取引量が期待したよりも増加しなかったことが挙げられます。
Penny Pricingが試験導入された株券オプションの取引高は、導入前に比べて約10%の増加となりましたが、米国のオプション市場全体の伸び率を考慮すると大きな変化とは言えませんでした。

第二の問題は、オプションの「直近価格の流動性」が著しく低下したことです。
これはどういう事かと言うと、今まではオプションを「10セントで売りたい」というトレーダーと、「5セントで買いたい」というトレーダーがいたとします。
この場合、10セントと5セントの間には価格が存在しないため、10セントか5セントのいずれかのプレミアムでオプションが取引されます。

それがPenny Pricingの導入後は、「11セントで売りたい」「12セントで売りたい」「9セントで買いたい」「6セントで買いたい」「7セントで……」といった様々な注文に分散されてしまうため、直近の売買価格による取引が成立し難くなったのです。

そして第三の問題は、オプションの価格データが頻繁に更新されるようになった結果、取引所におけるデータ配信の負荷が増大したことです。
13銘柄のみを対象とした試験導入ならまだしも、今後2,000種類を超える米国の証券オプション銘柄の全てにPenny Pricingを導入した場合、情報システムのトラブルなどが懸念されます。

今後の展望

シカゴ・オプション取引所(CBOE)は、Penny Pricingを数ヶ月間に渡って試験運用した結果、「まだ確信が得られず、引き続き試験運用を継続することが望ましい」との報告を米国証券取引委員会(SEC)に提出しました。

当面は試験運用が続くことになりますが、今後Penny Pricingが米国の証券オプション市場に本格導入されるかどうかは未定です。

Penny Pricingが上手く機能するためには、オプションの圧倒的な流動性が不可欠です。
オプションの取引量がそれほど多くない銘柄の場合、Penny Pricingを採用しても選択肢が増えるどころか、逆に取引が成立し難くなるというデメリットしか生みません。
結論として、今後米国の証券オプション市場においてPenny Pricingが根付くためには、市場全体の流動性がさらに底上げされる必要があるということが言えると思います。

備考

■ 現在Penny Pricingが試験導入されている銘柄

WFMI - Whole Foods
GE - General Electric
MSFT - Microsoft
IWM - Ishares Russell 2000
QQQQ - QQQQ
SMH - SemiConductor Holders
AMD - Advanced Micro Devices
INTC - Intel
CAT - Caterpiller
TXN - Texas Instruments
FLEX - Flextronics International
SUNW - Sun Micro
A - Agilent Tech, Inc.1

■ Penny Pricingプログラムの概要

現在、オプションのプレミアムが3ポイント未満では0.05ポイント、3ポイント以上は0.10ポイントの変動となっているが、これを3ポイント未満で0.01ポイント、3ポイント以上は0.05ポイントの変動とする取り組み。
ただ、0.01ポイントの変動は1ポイント未満のプレミアムに限定するという案も浮上しており、試験運用の結果次第では異なる取引ルールになる可能性もある。
<参照データ>
CBOE Penny Pilot Program
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